内容紹介
あなたが書いた台詞をあこがれの俳優が映画の中で口にする。あなたが書いたト書きは素晴らしい映像となってスクリーンを埋め尽くす。あなたがイメージした世界が、あなたが表現したかった世界が、あなたが観たかった映画やテレビドラマがあなたの手によって実現される。その時の喜びは何にも代え難い。
映画やテレビドラマを観るのは楽しいけれど、でもどうせなら創る側に回った方がもっと楽しい。創り手になるなんてそんなだいそれたこと、とか、創り手になるには特別の才能が必要なのだ、とか、映画やテレビの世界を大した根拠もなく過大評価している人が多い。しかしそれは想像力の賜で実際はどこの世界もさほど変わらない。確かに、映画やテレビの世界に入っていくのは現実問題としてそんなに簡単なことではないけれど、不可能というわけでもない。その気になってトライすればあちこちにいくらでもチャンスが転がっている。受け手から創り手に回る、その第一歩を自らシナリオを書くことで踏み出すことができる。
シナリオ・・・台詞とト書きのたったふたつの要素しかもたない単純な代物。文学的才能などいらずト書きに至っては形容詞すらない。語尾に工夫を凝らす必要もない。おそらくこの世に存在する表現形式の中でも最も簡単なものがシナリオだろう。思い立って一週間もすれば誰にでもでもある程度のものが書けてしまう。
しかし、料理にレシピがあるように、シナリオのフォーマットがいくら簡単だとはいえ、シナリオにはシナリオなりの方法論というものがある。映画もテレビも観客を相手にする。観客を相手にするのが仕事であれば方法論を知らない自己流は観客を置き去りにした独りよがりに陥りやすい。人に何かを伝えるには伝える方法というものがある。シナリオはそれを効率よく実現するためのものであって、その最大のポイントは観客の心を捕まえるという一点に集約される。観客を捕まえる方法、観客を飽きさせない方法、観客を自らが意図する方向へ導いていく方法・・・いいシナリオはしっかりとした技術の上に成り立っている。このような技術に支えられて初めて作家性や感性の表現も可能になる。
本書は、これからシナリオを書いてみたい人、あるいはシナリオが初心者の領域から抜け出せない人のための基礎文法書のつもりである。おそらくこのような人々は感性を頼りに筆を運んでいることだろう。ツボにはまれば一本や二本は素晴らしい作品が書けるかもしれない。しかし後が続かないし応用もきかない。技術を笑えば感性も曇っていく。
アメリカのアカデミー脚本賞、あるいは脚色賞を受賞した映画7本、それ以外にも説明上必要があると判断した場合は他の映画シナリオも用いて、すぐれたシナリオライターがどのようにシナリオを構築しているのか、約10項目に分け検討を加えていく。できるだけかみ砕いた説明にしたつもりではあるが、どれほど成功しているかは分からない。その辺りの判断は読者に委ねたい。本書がシナリオを書く上で参考になれば幸いである。
さあ、シナリオを書きましょう。 (「はじめに」より)
書籍情報
著者: 新田 晴彦 著
定価: 1,300円 (本体価格)
発行: 1996年12月13日
体裁: A5判 304頁
出版社: 株式会社スクリーンプレイ
ISBN978-4-89407-140-7